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ステレオタイプのアメリカ??? 『宇宙の戦士』

今回は古典の名作、アメリカSFの基本とも言える有名作、巨匠ハインラインの、ヒューゴー賞受賞作を取り上げましょう。

 

古い本で、アメリカでの発表は1959年。冷戦時代、ベトナム戦争の頃であり、「軍」に対する”讃歌”ともとれる内容に、問題作とも言われていますが、一方で、SF・ファンタジー小説の分野における最高の名誉であるヒューゴー賞を受賞しているベストセラーでもあります。

 

ロバート A. ハインライン 『宇宙の戦士』 早川文庫

物語は、高校を卒業した主人公は、軽い気持ちで志願兵となり、苛烈な訓練に耐え、一人前の軍人となって、異星との全面戦争に立ち向かう過程を描いたもの。最後には、入隊を反対していた父も軍人となって再会・和解をし、主人公も士官となって、父とともに、最重要な「作戦」へと向かっていく・・・。

 

この小説がSFの基本とも言えると書いたのは、その後のSFに多大な影響を与えたから。それは、主人公が配属されたのは「機動歩兵」という設定にあります。これは、パワードスーツ(強化防護服)を着た歩兵、つまり人間型ロボット兵器の原点だからです。

実は、ガンダムはこの小説から着想を得て、モビルスーツが生まれたと言われているんですね。

 

ここまで読むと、この小説は実にすばらしく、読むべきものであると考えられるでしょうね。それは、実際、そう思っていただいていいと思います。正直言って、非常に面白い小説です。SF小説好きはもちろん、そうでなくても、未読な方は、ぜひ読んで欲しいと思います。

 

しかし一方で、筆者はこの小説を大学生くらいで読んだのですが、”しこり”のように、不快感が残る読後感があります。そして、良くも悪くも「これがアメリカ人なのか・・・」という感覚。

小説は、偏った考え方でもあり得るわけで、あくまでフィクションなんですから、それが現実と思うのは愚かしいとは思うのですが、それでも、なにかしらの投影はあると考えてしまう……。そのくらい、この小説にはリアルなものを感じてしまうのです。実際に、今、このとき、アメリカ人たちがそう考え、そう発言しそうな。

 

アメリカ(特に、武力に対するアメリカ)のイメージは、筆者にとっては、この本によるイメージが多大な影響を与えています。

たかが小説……とは思うのですが、この小説の根底に流れる思想が、典型的なアメリカのような気がして仕方がありません。

 

実は、この小説を取り上げるのは、昨今のアメリカになんとも言えない恐怖心を覚えるから。

イスラエルに関しては、どうしてもアメリカの姿勢を擁護する気持ちになれなくて(今に始まったことではなく、昔からなんだけど)。

 

日本はずっと独立を守り続けていて、最後の戦争からも80年近く平和が続いています。

でも、今の世界情勢は本当に怖い。ウクライナのように、侵略されたら、この小説の主人公のような“誇り高い”軍人が育っていくのでしょう。

 

アメリカが日本に侵攻してきたときも、この小説ような人がたくさんいたんでしょうね……。

 

・・・なんか、とりとめもなく書きました。暗い気分で無駄にあれこれ考えてしまう。

でも、反戦小説より、戦争小説のほうが面白いというのも事実……なんですよね~。これだって、優れた宇宙戦争モノの古典的名作で、一人の少年の成長の物語……って紹介すればいいのに、と自分でも思います。

事実、本当に面白いのだから。

 

とってもおもしろいエンタメ小説なのに、複雑な気分になってしまう自分が残念です。

 

(2017年11月初出、2024年10月加筆修正)

 

 

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