14世紀、イギリスとフランスが闘った百年戦争と言えば、物語の主役級になる人物が多数登場し、歴史ファンにとっては興味深い時代。
イギリスで言えば、シェイクスピアが描いたヘンリー五世や、勇名を馳せたエドワード黒太子。一方のフランスでは、ジャンヌ・ダルクに、英雄ベルトラン・デュ・ゲクラン…。
そして、今回取り上げる小説の主役は、このベルトラン・デュ・ゲクランです。
佐藤賢一 『双頭の鷲』 新潮文庫 上下巻
この人物の名は初耳という人もいらっしゃるでしょう。かくいう筆者も、名前ぐらいは、どっか、別の本の中で登場した記憶くらいはあるものの、がっつり知ることになったのは、この小説を読んでから。
まぁ、人物は知らなくても、筆者的には佐藤賢一というだけで、読む理由は十分だったわけで。
もちろん、歴史の教科書になんかは載っていないと思いますよ。そもそも、世界の5000年の歴史を1~2冊の教科書で学ぼうなんて無理な話。世界史に日本の歴史を外しているのも意味がわからない……。もっと「歴史」の学び方を、教育者は体系的に考え直すべきです。単純に用語が多いから削ろう…とか、聞いているだけでうんざりですよ。
ちょっと話が逸れましたね。
とにかく、佐藤賢一が描くベルトランという人間は実に興味深い人物で、破天荒でいて、主君の熱い信頼を得て、軍事の天才として頂点まで上り詰めた大将軍です。
生きた時代は、日本で言えば、南北朝時代…こういう世界の中の日本という歴史の流れは、教科書には全然載っていなかったし、歴史を日本と世界に分けるから、面白さが半減するんじゃ!!! おっと、また逸れた。。。
日本でも、足利尊氏に対して、後醍醐天皇が南朝をたて、皇位継承を争った戦乱の時代ですが、英仏の百年戦争も、フランスの王位継承を巡って、イギリスとフランスの戦いです。
より具体的に言うと、王統が途絶えたフランスのカペー王朝に対して、最後のフランス王の甥であったイギリス国王エドワード3世が、正統な継承権は自身のほうにあると主張したことに始まり、百年にわたって戦ったというもの。
戦場はフランスで行われ、疲弊していく中で、次々とイギリスから土地を取り戻していったのが、天才ベルトラン・デュ・ゲクランなのです。
まさに英雄ですね。
本書は、ベルトランの戦いの生涯を描いた痛快絵巻。あまり政治色は強くないので、戦略モノとかが好きな方などは、特に興味深いのでは? また、筆者は、賢王と称されたシャルル5世と、軍神ベルトランの主従関係というか、友情…にも惹きつけられました。
ベルトランの死後2ヵ月で、後を追うようにシャルル5世も逝ってしまい、二人の天才デュオは百年戦争の前半で物語を終えます。当然、その後の戦争の行方は、別の物語を読むしかありませんね。例えば、前出のジャンヌ・ダルクは、百年戦争の後半に登場して来ますから、そちらの関連書籍を読むのもいいかも。
とにかく、この小説は歴史好きにはたまらなく面白く、おもわず斜め読みでもいいから先を読みたくなってしまうほど、続きが気になって仕方がない展開が続きます。
未読の方、歴史好きな方はぜひ読んでいただきたいですね。
さて。最後に、またまた脱線話で話をまとめますが、歴史というのは、中高校生の授業の中では、ほんのさわり程度しかふれることができませんよ。ですから、たくさんの興味をもってもらえるように、こんな歴史小説でもいいし、伝記でもいいし、本格的に各時代を追求した歴史書でもいいし、もっともっとと知りたくなるような、「道しるべ」「知識の入口」となるような、楽しい授業をしていただきたいものです。
そして、そのためには、もっと教師たちの勉強も必要だと、あえて厳しく書かせてもらいますよ。子どものころから歴史が好きだった筆者ですが、中高の歴史の授業は地獄のようにつまらなかったですからね。教科書読むより、用語集のほうがよっぽど面白かったくらいにね。だから、用語が増えたから減らそうだなんていう教育者たちには、鼻で笑ってしまいましたよ。
本当に楽しい歴史の授業を受けることができたのは、NHKの特集と、大学の授業からですから。
(2018年1月初出、2024年11月加筆修正)