「イメージの魔術師」と呼ばれる絵本作家エロール・ル・カインの代表作。
『おどる12人のおひめさま』(ほるぷ出版)
私は好きな絵本として、最初にあげる1冊……というか、私的には絵本というより、画集として楽しむ1冊です。
この絵本を初めて手に取ったときの私は、10代後半という、大人になりかけの時。まだまだ多感だったけど、でも子どもと時のような感受性は失っていた頃でした。
素直に名画で涙を流せないような、美しいものになかなか心が動かないような……。
でも、美しいものを求め、感動の涙を流したいと思う……。
でも、この絵本には、ひねくれた心でも浮き立たせてくれるような「美」の世界があります。そして、いつも心を楽しませてくれるのです。
ル・カインの絵は、とにかく美しい。
この絵に惹かれたのは、ル・カインが幼少期にインドや香港、日本、サイゴンなどで過ごしたことも影響しているかもしれません。彼の絵には、どこかエキゾチックで、私たち日本人の感性もくすぐるのでしょう。
日本の絵本というと、子ども向きにどちらかと言えば「かわいい」ものが多いと思いませんか?
しかし、欧米のものは「美しい」ものが多い。子どものレベルに合わせて、絵が幼児化することは、絵本としての絶対条件ではないのです。そして、別に大人向けの絵本とかでもなく、子どものために、美しい絵本、ともすれば、ちょっと背伸びしたような絵の世界で、子どもを物語に誘うのです。
実は、ミッフィー(うさこちゃん)も、かわいいようでいて、私は洗練された美のほうを強く感じます。ごくごく小さな子どものための絵本であっても、かわいいけど、シンプルな美意識に溢れている……これが、ヨーロッパの絵本の素晴らしさだと思います。
・・・ちなみに、日本の「かわいい」絵本も大好きですよ。単純に楽しい。難しさがありません。
というのは、時に「美」とは、グロテスクなものも紛れ込んできます。これは欧米の絵本にも言えるのですよ。
でも、この本に関してはひたすら美しい。
小さなお子さんにも楽しめるでしょうし、日々に疲れる大人の女性たちにも……。
実際、私は時にこの絵本を贈り物としますが、いつでも喜んでもらっています。
この絵本の世界、12人のお姫様が踊る舞台は、中世のタペストリーで描かれているような繊細で華麗な世界。
この1冊から、絵本の魅力にとりつかれるかもしれませんよ。
そして、エロール・ル・カインのとろこになって、その絵本(作品集!)を集めてしまいましょう。
(2016年6月初出、2024年10月加筆修正)